主義主張、思想信条といった点では、「真のIRA」は "IRA" かもしれません。しかし組織としては、「真のIRA」は「IRA」ではありません。
北アイルランド紛争について「IRA」と言う場合、それが「思想信条」のことなのか「組織」のことなのかが微妙なことがよくあるのですが、アカデミックな分析や実際に暮らしている人たちの言語ではなく報道・ニュースの言語でいう「IRA」はほぼ例外なく組織のことですし、前提としては、「真のIRA」は「IRA」とは別の組織である、と認識してください。
いわゆる「IRA」はProvisional IRAのことです。「真のIRA」、つまりReal IRAは、Provisional IRAの分派です。この「分派」というのをもう少し詳しく言うと、Provisional IRAの方針に納得できないので、Provisional IRAを抜けて別な集団・組織を作った、ということです。具体的には、1997年から98年にかけて「和平プロセス」に賛成した人々はProvisional IRAに残り(数の上でも多数だった彼らが「リパブリカン主流」と言える存在です)、それに反対したメンバーがProvisional IRAを抜けて結成したのがReal IRAです。
「IRA」と「真のIRA」の違いとして最も重視されるべきことは、前者は現在は活動しておらず、後者は現在も活動している、ということです。(ここでは「現在」は2008年から2009年のことを言います。)
「IRA」(Provisional IRA: PIRA) は、1997年に停戦して以降それまでのような武装闘争活動は行なっておらず、2005年7月に武装闘争を停止すると宣言し、2005年9月に武器の放棄を完了し、2008年9月には「もはや機能していない」とIMCによって公式に認められています。
一方「真のIRA (Real IRA: RIRA)」は、「IRA」の停戦(武装闘争路線の放棄)に反対するIRAメンバーが、IRAを脱退して立ち上げた組織(分派)で、「強硬派」とか「過激派」と呼ぶのが相応しい組織です。Real IRAは武装闘争路線を継続し、北アイルランドおよびイングランドで爆弾による攻撃、銃による攻撃を行なってきました。1998年8月15日のオマー爆弾事件(死者29人、全員が一般市民)、2000年から2001年にかけてのイングランドでの攻撃(ハマースミス橋に爆弾、MI6本部にロケット弾、BBC本社前で車爆弾、ロンドン郵便仕分け所に爆弾、イーリングのパブに車爆弾など)が彼らの活動として挙げられます。また、2007年ごろからは北アイルランドで警官を狙った襲撃を何件も行なっています。もう少し詳しいことは、ウィキペディア日本語版でどうぞ(この項は、私も執筆・編集に参加しています)。
同じことを別な面から見ると、こういう点もポイントになります――「IRA」は(2007年1月に明確に決定されましたが)北アイルランド警察を支持しています。「Real IRA」は、北アイルランド警察を「敵」とみなしています。実際にReal IRAは、警察官を対象とした襲撃・攻撃・脅迫をたびたび行なっています。2007年11月には「カトリック」の警察官がReal IRAに殺されそうになりました(銃が故障していたので警官は難を逃れたのですが)。
以上のような次第で、「Real IRAはIRAを名乗る組織(IRA系組織)のひとつ」とはいっても、北アイルランド紛争で最大の武装組織であった「IRA」(Provisional IRA)と「同じ系統」の組織として扱うことは、2009年の現在では、なるべく避けたほうが混乱が少ないのではないかと思います。
以上、【質問1】に、本館でのいろいろな「IRA」〜IRBからReal IRAまでの概略というエントリへのリンクをつけてあるのですが、3ヵ月経過してもクリック数が1桁という状況で、一方で「Real IRA」については本当にFAQ(よく訊かれる質問)なので、しびれを切らして新たにエントリにしておきました。
Real IRAについてはまた別のエントリで詳しく書きます。たぶん。