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2008年12月24日

【質問27】 「紛争」中のベルファスト、クリスマスの様子は。

【回答27】
今から30年前、1978年のクリスマスの時期にオーストラリア人記者がベルファストを取材したフィルムが、BBCのサイトにアップされています。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/7792046.stm

英語の聞き取りなんかできなくっても見ればわかりますから、見てください。

1978年というと、こういう年です。
http://cain.ulst.ac.uk/othelem/chron/ch78.htm


ざっとまとめると、アイルランド共和国(ジャック・リンチ首相)と英国(ジェイムズ・キャラハン首相、労働党)とは北部6州の帰属をめぐってかなり対立しており、「カトリック」の失業率は「プロテスタント」のそれよりもずっと高いという報告書が出され、欧州人権裁判所はロング・ケッシュでの「尋問方法(5つのテクニック)」について「拷問にはあたらないが非人間的である」という結論を下し、SDLPは「英国政府は第三の道をとるべき」と述べ(第一の道がユニオニズムの強化、第二の道が統一アイルランド、第三の道は「合意のもとのアイルランド」、つまり両者共存の道。今の「和平」はこの形)、IRAはあちこちで爆弾を爆発させ(2月のラ・モン・レストラン爆破が最大か。会食中にIRAの仕掛けた爆発物が爆発、プロテスタント一般市民12人死亡、23人重傷)、IRAの銃は人命を奪い続け、ロイヤリスト武装組織の報復がなされ、ユニオニスト強硬派がUUPに合流し、英国のキャラハン政権は末期でグダグダな「数の政治」で北アイルランドを(つまりUUPを)味方につけようと動き、アムネスティ・インターナショナルは北アイルランドでの拘置施設でRUCによって「虐待 ill-treatment」が行なわれているとの報告書をまとめ、英国政府(労働党政権)はこの報告書の公表を待ってほしいとAIに要請し(AIはそれを飲まなかった)、北アイルランドからの英国の撤退を求める声は日増しに高まり(英国ではデイリー・ミラーがこれを支持)、英国側(しつこいけど労働党政権)はこれを拒否し、ジェリー・アダムズはIRAのメンバーシップ容疑で起訴され、証拠不十分で無罪となり、1968年のデリーでの公民権デモの始まりから10周年を記念するデモがあり、ユニオニスト強硬派中の強硬派であるDUPがこれに対しカウンター・デモをやって警官隊と衝突し……という年です。

そして翌1979年5月には総選挙で政権が労働党から保守党になり、「鉄の女」が首相になって、さらにまた厳しいことになっていくのですが、それはそれ。

BBCにアップされている映像レポートで、はるばるオーストラリアからやってきた記者は、特に「テロリズム」を強調していません。通りに設けられた検問所のようなところで所持品検査を受けて出てきた彼女は、「ベルファストは美しい町ですが、オーストラリアから来た私にはちょっとショックです。寒くて」と、「当たり前だろう」とつっこみたくなるようなことを言います。

肉屋を訪れた記者は、おやじさんに「クリスマスディナーではいつも七面鳥を食べることになっているのですか」と質問します。おやじさんは「そうですよ。ベルファストでは七面鳥なしのクリスマスディナーはありえませんから」と答えます。記者はオーストラリアの「夏」のクリスマスの過ごし方を説明します。おやじさんは「それもいいっすね、へへへ」と笑います。

カメラは淡々と、町の様子を撮影します。大通りの大きなクリスマスツリーのところに、大人に引率されて集まっている子供たちや、いつも通りに大通りをパトロールする軍(たぶんUDR)の車両、そして、赤い十字をつけた六輪の軍用車両(たぶんサラセン)が大通りを走るのを。おもちゃ屋の子供たちを。男の子たちが軍用車両か何かの模型とか、銃のおもちゃとかをいじっています。(同じころ、日本で男の子たちが宇宙戦艦ヤマトとかのプラモに夢中になっていたのとはコンテクストが違うと思います。)

住宅街とおぼしき場所のクリスマスツリーの脇には、Smash H-Blockの立て看板があります。ナショナリストのエリアです。この時には既に、ロング・ケッシュでブランケット・プロテスト(囚人服着用拒否)が始まっていたことが映像で確認できます。



町の広場のようなところに設営されたステージで、女子学生の合唱団が歌っています。ステージの前に、かなりの高さの仕切り板があります。リハーサル中の衝立かもしれません。ステージの上にはBelfast City Council and Belfast Telegraphとあります(どちらも「ユニオニスト」の立場です)。でも、上で参照したCAINの年表には、この年、ベルファスト市はユニオニストの間でいろいろあって、ノン・セクタリアンな「アライアンス」党の人が初めてロード・メイヤーになった、とあります。(政党についてはまた別項で少し詳しく説明します。)



何かが爆発した直後のように見える街路(住宅街)の映像があります。Riotの後かもしれません。このフィルムでは、言葉での説明はありません。ただ、Silent night, holy night ... の歌が流れているだけです。



そして最後に、ベルファストのハイストリートで、記者は人々にインタビューしています。「今年のクリスマスの願い事を教えてください」。

最初の中年女性は即座に「平和 peace」と答えます。彼女の連れの女性も「私も同じです」と即答します。

次にインタビューされている25〜30歳くらいの女性も、「平和を a little of peace」と答えます。「ずっと荒れているから」と。

そのあとにインタビューされている人たちもみな、「平和」と答えています。30代と思しき男性も、50代と思しき男性も、「聖子ちゃんカット」風の女性も。「平和を。他に? んー、平和が一番重要です。まともな生活がしたいという願いはみな同じだと思います」。

記者は最後に、「ベルファストのクリスマスは、ほかのどこのクリスマスともあまり違いはないようです。ただひとつ、寒いということを除いては。ベルファストは美しい町です」とカメラに向かって述べています。そして、「だからこそ私は泣きたくなります。平和と幸福を。来年は少し変わってくるといいですね」と。そして翌1979年にどうなったかは……年表をどうぞ。3月のロンドン、8月のドニゴール……。



記者が背にしているHappy Chiristmas Belfastのバナーでサンタの背後にある建物は、ベルファスト市の市庁舎です。彼女が立っているこの場所自体、市庁舎の前だと思います。



1978年といえば、前年の1977年10月とこの年の10月、ロンドンのthe Clashがベルファストでライヴをやっています。その時には既に「紛争」の文脈での主義主張とかどうでもいいという若者たちの間でパンク・ムーヴメントが盛り上がり(本当に、「カトリック」も「プロテスタント」もなく)、テリー・フーリーがGood Vibrationsというレコードレーベルを始め、デリーのthe Undertonesが "Teenage Kicks" をリリースし、Stiff Little Fingersはラジオのスタジオで "Suspect Device" をレコーディングしてカセットテープでシングルを出し、Fingersのアルバムを出したラフ・トレードは、インディーレーベルのリリースとして初めてチャートインするアルバムを手にすることになり、大爆発します(もちろん、比喩的な意味で)。

Stiff Little Fingers performing Suspect Device on Ulster TV 3rd June 1978:
http://ie.youtube.com/watch?v=RBYoNYuUVk0


おまけ。
2008年の彼ら(音悪いですが最前列の臨場感にあふれています。ちょっと酔うけど。笑):
http://ie.youtube.com/watch?v=KBFDtfeUK5E



ロング・ケッシュのハンガーストライキで10人が死んだ1980年、既に音楽活動のためにロンドンに拠点を移していたStiff Little Fingersがベルファストに戻ってやったライヴから、Alternative UlsterとSuspect Deviceの2曲。これのSuspect Deviceが本当に「ライヴ」としてすばらしいし、何より、フロアからステージに上がってきた子たちにマイクを譲ってギターを弾くジェイク・バーンズの表情。
http://ie.youtube.com/watch?v=IEuvDvuYQsA

※はてブのコメントでこのビデオに言及してくださった方、ありがとうございます。
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*参考書籍*

北アイルランド紛争についての英書

英語ではとても読みきれない(買いきれない、収納しきれない)ほどの本が出ていますが、筆者は特に下記の書籍を参照しています。
※画像にポインタを当てると簡単な解説が出ます。

031229416607475451970717135438
The IRA
Tim Pat Coogan
Loyalists
Peter Taylor
Killing Finucane
Justin O'Brien

北アイルランド紛争について、必読の日本語書籍
筆者はこのブログを書く前に、特にこれらの書籍で勉強させていただいています。

4621053159 4846000354
IRA(アイルランド共和国軍)―アイルランドのナショナリズム
アイルランド問題とは何か
鈴木 良平

北アイルランド紛争の歴史
堀越 智

IRA―アイルランドのナショナリズム(第4版増補)
鈴木良平

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暴力と和解のあいだ
尹 慧瑛
→「北アイルランド」での検索結果
→「Northern Ireland」での検索結果
* photo: a remixed version of "You are now entering Free Derry",
a CC photo by Hossam el-Hamalawy
http://flickr.com/photos/elhamalawy/2996370538/


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