1970年代、北アイルランドでは治安当局から「カトリック」の人々に対し、実質的に「拷問」と呼べることが行なわれていました。その「拷問」で音が使われました。
White noise in a white room
White noise in a white room
White noise in a white room
White noise in a white room
Trapped in heaven life style (locked in Long Kesh)
New looking out for pleasure (H-block torture)
It's at the end of the rainbow (White noise in)
The happy ever after (a white room)
Dirt behind the daydream
Dirt behind the daydream
The happy ever after
Is at the end of the rainbow
―― Gang of Four, "Ether"
http://ie.youtube.com/watch?v=-dH6FltYv2Q
上記は1979年にリリースされた英国のバンド、Gang of Fourのファースト・アルバム、Entertainment! の1曲目です。「ロング・ケッシュのホワイトノイズ」のこと、「Hブロックの拷問」のことをストレートに歌詞にした(ちなみにこのGang of Fourは中国の「四人組」のことではなく、ポスト構造主義の「四人組」のほう。バルトとかフーコーとか。)
「ロング・ケッシュ Long Kesh」は「メイズ刑務所 Her Majesty's Prison Maze」の旧称・愛称(刑務所に「愛称」もあったものではありませんが、「通称」というより「愛称」に近いと思います)。元々は英空軍の施設だった場所が、1971年の「インターンメント」導入(英軍とRUCのデメトリウス作戦)で「ナショナリスト/リパブリカンの隔離施設・強制収容所」として利用されるようになったものです。(「インターンメント」、「デメトリウス作戦」については稿を改めます。)
当初はつかまえてきた人たちは英空軍時代のニッセンハット(かまぼこ型の建物)に放り込まれていたのですが、1970年代半ばに鉄筋コンクリートのHの字型の刑務所然とした建物(「Hブロック H-blocks」と呼ばれます)が建設され、このHブロックで1981年のハンガーストライキをはじめとする多くのことが起こります。それはまた稿を改めて。
1971年8月、デメトリウス作戦で身柄を拘束された人たちの中に、施設に到着するやいなや頭に袋をかぶせられた人たちが14人います。彼らは "hooded men" とか、"Guineapigs" と呼ばれています。彼らは英治安当局の「尋問方法」の実験台にされました。
この「尋問方法」が、一般に「5つのテクニック the five techniques」と呼ばれている方法です。
英語版ウィキペディアから:
http://en.wikipedia.org/wiki/Five_techniques
The term five techniques refers to certain interrogation practices adopted by the Northern Ireland and British governments during Operation Demetrius in the early 1970s. These methods were adopted by the Royal Ulster Constabulary with training and advice regarding their use coming from senior intelligence officials in the United Kingdom Government.
The five techniques were: wall-standing; hooding; subjection to noise; deprivation of sleep; deprivation of food and drink. ...
「5つのテクニック」とは、1970年代初頭のデメトリウス作戦の期間中に、北アイルランド自治政府と英国政府によってとられた尋問の方法のことをいう。RUC(当時の北アイルランド警察)がこれらの方法を使うに当たって、英国政府の情報機関の上級職員が訓練をほどこし、アドバイスを与えていた。
「5つのテクニック」は、具体的には、壁に向かって長時間立たせること、頭に袋をかぶせること、ノイズに絶え間なくさらすこと、睡眠を奪うこと、食事と水を与えないこと、の5つであった。……
後に、この「5つのテクニック」は人権侵害であるとして、アイルランド共和国政府が英国政府を欧州人権裁判所に提訴しました。そして1978年に、欧州人権裁判所は「『5つのテクニック』は『拷問』と呼べるほどのものではないが、非人間的で屈辱的な処遇方法である」という内容の法的判断を示し、この「尋問方法」は欧州人権条約に反する、と結論しました。
1978年に、この「尋問方法」が「拷問にはあたらない」と判断されたことは、2001年以降のいわゆる「テロとの戦い」にも大きく影響しています。(これがなければ、米国の議会で「ウォーターボーディングは拷問かそうでないか」でだらだらと「ディベート」をしているなどということは起こりえなかったでしょう。)
ともあれ、この「尋問方法」で英当局がナショナリスト/リパブリカンの男性たちに浴びせた「ノイズ」が「ホワイトノイズ」でした。そのことは、2005年年頭に機密指定期間がすぎて開示された英国の公式文書にもしっかり記録されています。(このような文書を待つまでもなく、インターンメントでロング・ケッシュにぶち込まれた人たちの証言はいろいろとあったのだけど。)
Internment report led to fury
by Paul Reynolds
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/politics/4117611.stm
Amid arguments similar to those surrounding the detention of prisoners at Guantanamo Bay, the Compton report examined so-called sensory deprivation techniques used on IRA suspects held without trial - hooding, wall-standing, white noise, sleep deprivation.
ホワイトノイズとは、ごくごく簡単に説明すれば「全部の成分が均等に入った音」です。テレビの放送時間外のいわゆる「砂嵐」の音です。究極のミニマリズムというか、一切の変化がありません(ブラウンノイズやピンクノイズはまだ変化がありますが、ホワイトノイズにはそれがありません)。自分で選んで聞くならむしろ神経を休めることができる音ですが、自分の意思とは関係なく、何らかの方法でその音の理由を見つけることもできず、身柄を拘束された状況下で、四六時中あの音がずっと連続して流されているというのは、想像するだに無間地獄です。
1971年の北アイルランドでは「ノイズ」のほか、負担のかかる姿勢で長時間立たせておく、食事や水を与えない、寝入ったと思ったところで看守がフライパンのようなものを叩きながら部屋に乱入する、といった形で、「尋問」の対象を精神的に弱らせる手法が「実験」されました。そしてその「実験結果」は、その後の「尋問」で活用されました。現在シン・フェインの党首をしているジェリー・アダムズも「尋問」されたひとりです。彼の回想から:
服を脱がされ、頭に黒い袋をかぶせられた者もいる。袋は光を完全に遮るもので、頭から肩までこれをかぶせられるのだ。壁に向かって四肢を広げて立つと、脚を下から蹴られる。睾丸や腎臓を警棒や拳で殴られ、股間を蹴られる。ベンチに寝かせられ、身体の下にラジエータや電気ヒーターが置かれる。腕がねじ曲げられ、指がねじ曲げられ、肋骨をしたたかに殴られ、肛門に物を突っ込まれ、マッチで火をつけられ、ロシアン・ルーレットをやらされる。ヘリコプターに乗せられ宙吊りにされた者もいた。中空高く飛んでいると思っているが、実は地上5〜6フィートでしかなかった。彼らは常に袋をかぶせられ、手錠をかけられ、途切れることのない高音のノイズを聞かせられていた。
のちにこれはextra-sensory deprivation(extra感覚遮断)であると説明されることになる。これが何日も続くのだ。この過程において、何人かが裸の写真を撮影された。
最初に「実験台」にされた人たちの体験については、法律家で著述家だったジョン・マクガフィン(2002年没)が丁寧にまとめた本を出しています。この本、The Guneapigsは英国政府によって発禁処分となりました。現在はアルスター大学のCAINデータベースや、マクガフィンの著作などをまとめたサイト、Irish Resistance Books (IRB) で誰でも読めるようになっています。
http://cain.ulst.ac.uk/events/intern/docs/jmcg74.htm
http://www.irishresistancebooks.com/guineapigs/guineapigs.htm

この、「ロング・ケッシュのホワイトノイズ」の延長線上に、グアンタナモ、バグラムなど米軍の拘置施設での「音楽拷問」があります。
当局によって自分たちの楽曲が使われたミュージシャン/アーティストと英国の法律家団体Reprieveが、拷問への音楽の利用の停止を求める活動、zero dB を始めました。リンク先で署名できます(ただしサイトがクソ重いです。全部flashで)。署名方法についてなどは、本館のブログに書いてあります。私はzero dBとは一切関係はなく、単に自分がサポートしたいだけですが、ここをお読みの方も賛同のお気持ちがおありでしたら(なおかつ、flashサイトに負けない回線をお使いなら)、ぜひ署名をよろしくお願いします。
なお、「キャンペーンなのに全部flashってありえないから、text onlyのページも作ってください」という要望も送ってあります。そういう要望をしたい方は、info@reprieve.org.ukに英語でメールを。