現在進行中の事件などに関しては、本家およびはてなブックマークをご参照ください。

2008年12月11日

【ロイヤリストFAQ 質問4】 LVFって何ですか。

【ロイヤリストFAQ 回答4】
※以下は概説です。詳細については別の項目を立てます。

"LVF" は、the Loyalist Volunteer Forceのことです。日本語にすれば「ロイヤリスト義勇軍」となりますが、特に訳語で表されてはいないように思います。読み方は「エル・ヴィー・エフ」です。

LVFはUVFから分派した「ロイヤリストの超過激派」です。1994年10月にロイヤリスト武装組織が一斉に停戦 (ceasefire) したのですが、これに反対していた人々が独自の組織として立ち上げた組織です。(むろん、LVFは1998年のグッドフライデー合意にも反対しています。)

で、今は概略だけをざっと述べ、詳細はまたおいおいということにさせていただきたいのですが、LVFは1996年7月の「ドラムクリー紛争 Drumcree dispute」のときにカトリックの一般市民(タクシー運転手)を射殺し、その存在が知れ渡ったようです。1997年6月に英国で非合法テロ組織に指定されました。

リーダーは1960年生まれのビリー・ライトというミリタントで、UVFでの活動歴もいろいろとあったのですが、最終的には1997年3月に脅迫容疑で起訴されて有罪になり、懲役8年を宣告され、メイズ刑務所(ロング・ケッシュ:パラミリタリー専用の刑務所)に収監されます。メイズで彼は「LVFは他のロイヤリスト組織とは別の棟に入れろ」と要求、これが通って(一緒にしておくと大変なことになるという前提はあります)、LVF専用棟が用意されましたが、事件はここで起こります。


1997年12月27日、クリスマス直後のその日、面会室に向かうために建物の外に出て移送車に乗っていたライトが、LVF棟の隣のINLA (the Irish National Liberation Army) 棟の屋上から狙撃され、死亡。

つまり、刑務所の中に銃が持ち込まれ、INLAの囚人が屋上に上がり、看守もついている状況で刑務所の中庭で囚人が射殺されるというものすごいことがあったのですが、この事件については現在もまだ「真相解明」の途上です。もっとも、警察が証拠になる書類を廃棄したり、重要なパソコンが盗まれたりしているので、そう簡単に「真相」が明らかになるとは思えませんが。
http://b.hatena.ne.jp/nofrills/LVF/
http://www.billywrightinquiry.org/

このインクワイアリについて、本館での2007年06月09日のエントリから:
刑務所内に銃が持ち込まれたというだけでも大変なことだが、さらに、監視でがっちがちの同刑務所で銃を持った3人の囚人が建物の屋上に上がり、敵対する勢力の囚人を射殺したというのは、「大変」をはるかに超える事態だ。殺されたビリー・ライトは一部でカリスマ的人気があった人物で、UDAやUVFやIRAなどが停戦した状態で当時進行していた「和平」にとってはものすごい邪魔者だったから、その殺害には裏があるんではないかという指摘は当然のごとくなされていたわけだが、父親が求めてきたパブリック・インクワイアリ(調査)は2004年11月に開始された。
http://www.billywrightinquiry.org/


狙撃の実行犯は3人ですが、うち1人は別の罪で刑務所に入っているときに死亡しました(自殺だったとの報道です)。これが2007年6月。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/6736185.stm
http://nofrills.seesaa.net/article/44357650.html

ビリー・ライトの後をうけてLVFリーダーとなったマーク・フルトンという男も、2002年に刑務所で首を吊って死亡しています。
http://www.encyclopedia.com/doc/1P2-9989660.html

そして、「カトリック」の弁護士、ローズマリー・ネルソンが1999年に車に爆弾を仕込まれて爆死した事件の首謀者が、このマーク・フルトンだという話も出ています。(ローズマリー・ネルソン爆殺事件についても、現在「真相解明」の途上です。)

そんなこんなで、LVFについて書き出すとついつい長くなるのですが、詳細はまた改めて。(※ビリー・ライトの生い立ちとその殺害については、このエントリの次のエントリ(LOY質問5)をご参照ください。)

ビリー・ライト射殺事件後、それに対する報復 (retaliation) として、LVFとUFFは「カトリック」の一般市民10人を射殺しました。LVFの「戦争」はこういう感じで、LVFが殺害を認めている18人のうち、13人が一般人です。残る5人のうち、3人はUVFメンバー(分派しているので対立が深刻)、LVFメンバーが1人、元IRAメンバーが1人となっています。(「元IRAメンバー」は、ガンマンはそれを知っていて殺したのではなく、たまたま殺した「カトリック」がそうだった、ということのようです。)

1998年4月のGFAには反対していましたが、同年5月に停戦を宣言しながら和平プロセスに反対して武装活動を継続するというわけのわからないことになりました。同年12月に一部武装解除(一部の武器を当局監視のもとで廃棄。武器の詳細については、このエントリの下にURLをはっておくウィキペディア記事に出ています)していますが、その後も細々と武装活動は続いており、麻薬密売などギャング活動も活発です。2000年代にはUVFとの対立(ロイヤリスト内紛)がひどいことになって、ロイヤリスト同士で襲撃、家からの追い出し(焼き討ち)などが連日BBCで報じられていたことがあります。

PIRAの武装解除が確認された後の2005年10月30日には、LVFは「ミリタリー・ユニット」を解体するよう指示を出し、2006年2月にはIMC報告書で「LVFとUVFの内紛は終結している」と認められ(IMCの報告書に出た時点で「事実」として100%確定したと扱ってOK)、以後、武装活動は確認されていないようですが、ギャングとしての活動は継続しているそうです。

LVFは規模も小さく(最も多かったときでもメンバーは300人くらい、現在は数十人単位 dozensと思われる)、「北アイルランド紛争」の文脈では「ロイヤリストのフリンジ・グループ」(つまり、中心的な存在ではない武装集団)として扱われる組織ですが、その凶暴さというか、当人たちが「ある」としている「主義主張」は実は不在だ(あるのはセクタリアニズムであって主義主張ではない)ということについては、非常に多くを示している集団だと思います。

参照先:
http://en.wikipedia.org/wiki/Loyalist_Volunteer_Force
http://cain.ulst.ac.uk/othelem/organ/lorgan.htm#lvf
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*参考書籍*

北アイルランド紛争についての英書

英語ではとても読みきれない(買いきれない、収納しきれない)ほどの本が出ていますが、筆者は特に下記の書籍を参照しています。
※画像にポインタを当てると簡単な解説が出ます。

031229416607475451970717135438
The IRA
Tim Pat Coogan
Loyalists
Peter Taylor
Killing Finucane
Justin O'Brien

北アイルランド紛争について、必読の日本語書籍
筆者はこのブログを書く前に、特にこれらの書籍で勉強させていただいています。

4621053159 4846000354
IRA(アイルランド共和国軍)―アイルランドのナショナリズム
アイルランド問題とは何か
鈴木 良平

北アイルランド紛争の歴史
堀越 智

IRA―アイルランドのナショナリズム(第4版増補)
鈴木良平

458836605X
暴力と和解のあいだ
尹 慧瑛
→「北アイルランド」での検索結果
→「Northern Ireland」での検索結果
* photo: a remixed version of "You are now entering Free Derry",
a CC photo by Hossam el-Hamalawy
http://flickr.com/photos/elhamalawy/2996370538/


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