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2008年12月08日

【ロイヤリストFAQ 質問2】 UVFって何ですか。

【ロイヤリストFAQ 回答2】
※以下は概説です。詳細については別の項目を立てます。

"UVF" は、the Ulster Volunteer Force, 日本語で「アルスター義勇軍」のことです。読み方はアルファベットそのまま「ユー・ヴィー・エフ」です。

UVF Forever and Ulster組織の名称に「アルスター」が含まれていることからもわかるとおり、この組織は「ユニオニスト/ロイヤリスト」側の武装組織です。構成員は「プロテスタント」です。

組織の標語はFor God and Ulster, 「神とアルスターのために」。左図はベルファストにあるUVFのC Company, 1st Battalionの壁画で(元の写真、Creative Commons Attribution-ShareAlike 2.0 License, flickrユーザーのShiraz Chakeraさんによる)、覆面・黒の上下・白ベルトに武器(銃の種類は、見る人が見れば絵から特定できると思います。私には無理ですが)といういでたちの「義勇兵 volunteers」が守るようにして取り囲んでいるエンブレムの下半分に、この標語が書かれているのが確認できます。なお、紋章の中央にある「手」は「アルスター」のシンボルです。エンブレムの上に並んでいる5人は「戦死者」で、それぞれの肖像画に、"Vol. R. McIntyre" といったように――つまり「R. マッキンタイア義勇兵」といったように名が記されています。

UVFの始まりは1960年代後半です。ベルファスト西部のシャンキル・ロードのあたりや東ベルファストといった「プロテスタント」のコミュニティで人員が集まり、1916年のイースター蜂起から50年で「ナショナリスト」が蜂起を記念した1966年5月にIRA(当時はただの「IRA」、1969年に分派してProvisional IRAとOfficial IRA)に対し「宣戦布告」を行い、「カトリック」を標的とした攻撃を本格的に開始します。(実際にはこの当時のIRAはかなり弱体化していて、「敵」と見なせるほどの脅威だったのかどうか疑問もあるようですが。)

2007年にUVFが活動停止を宣言したときのガーディアンのまとめの年表から、1966年の項:
http://www.guardian.co.uk/uk/2007/may/03/politics.northernireland
1966
June: The UVF claims the first victim of the Troubles, shooting dead 28-year-old store man John Patrick Scullion in west Belfast. Barman Peter Ward, an 18-year-old from west Belfast, becomes the second victim of a UVF gun attack. Northern Ireland Prime Minister Terence O'Neill proscribes the organisation. Gusty Spence and two other men are later given life sentences for the murder of Peter Ward.

1966年
6月:UVFの手により、「北アイルランド紛争」最初の死者が出る。UVFは西ベルファストで28歳の店員、ジョン・パトリック・スカリオンを射殺した。また、UVFに銃撃された西ベルファストの18歳のバーテンダー、ピーター・ウォードが2人目の犠牲者となった。当時の北アイルランド自治政府のテレンス・オニール首相はUVFを非合法組織に指定した。ピーター・ウォード殺害事件では、ガスティ・スペンスら3人が後に終身刑を宣告された。


ジョン・パトリック・スカリオン、ピーター・ウォードについては、アルスター大学のCAINデータベース内にあるSutton Index of Deathsの対象期間(1969年以降)から外れていますが、2007年5月3日のBBC記事、"What is the UVF?" でも、彼ら2人とプロテスタントの女性1人が「北アイルランド紛争の最初の犠牲者」として扱われています。

そして、UVFは「IRAを敵として宣戦布告」をしたのですが、「最初の犠牲者」となった3人とも、IRAとは無関係でした。

Peter Taylor, "Loyalists", 1999(記事の下にある「書籍リスト」参照)の第三章, p. 41によると、スカリオンは、死体が発見された当初は泥酔の上での事故死と見なされていたそうです。3週間後にUVFの「ウィリアム・ジョンソン大尉(キャプテン)」なる人物からマスコミに連絡があり、スカリオンは彼らが殺したとの犯行声明があってようやく、銃撃されて死亡したことがわかった、との経緯。(ちょっと信じられないような話ですが。)

ピーター・ウォードについては、Ibid., pp. 42-43によると、インターナショナル・ホテルのバーでバーテンをしていたウォードら4人の職場仲間が、週末に「帰りに一杯飲んでいこう」と立ち寄ったシャンキル・ロードのバーで――当時はまだシャンキル・ロードのバーに「カトリック」が行くことは普通だったそうですが――、UVFのガスティ・スペンスに話しかけられ、スペンスが仲間(UVFメンバーに)「連中はIRAだ」と告げて、ウォードら4人が店を出たところでスペンスらが襲撃した、ということだそうです。

なおスペンスらはスカリオン殺害の容疑もありましたが、こちらは起訴取り下げになっているとのこと。

……と、少し長くなりましたが、「紛争」を始めたのは誰か、ということを問うときに「彼らである」として名を挙げることのできる組織はUVFである、ということです。(むろん、さらにさかのぼってIRAの「ボーダー・キャンペーン」を言うこともできるのかもしれませんが。そしてさらにさかのぼって第二次大戦中とか、さらにさかのぼって1921年の「分断」の時代とか……とさかのぼることを続けていくと、最終的には12世紀とかに行き着いてしまうのが「北アイルランド紛争」です。)

なお、UVFには以下の「別名」あるいは「看板は違うけれど中身はほとんど同じ武装組織」があります。
http://en.wikipedia.org/wiki/Ulster_Volunteer_Force#Affiliated_organisations

# PAFはthe Protestant Action Group (PAG) という名称も使っていたそうです。UVFが出てくると、ロイヤリズムの「アルファベット・スープ」がどんどん濃くなりますね。

(なお、上記en.wikipediaに「UVFのユース」として挙げられているThe Young Citizen Volunteers (YCV)は、現代のUVFではなく昔のUVFについてのもの……誰か修正してくれないかなあ。)

アルスター大学のCAINデータベース内にあるSutton Index of Deaths(→このデータベースの見方の説明)によると、「紛争」においてロイヤリスト武装組織が殺した1,020人のうち、UVFが殺したのが427人、RHCが殺したのが13人、PAFが殺したのが37人、合計で477人です。

また、Suttonでcross tabulationでStatus summaryとOrganisationで確認すると、UVFが殺した427人のうち、リパブリカンの武装組織メンバーは21人で、一般市民が359人、ロイヤリスト武装組織メンバーが41人、英治安当局者が6人です。RHCは、13人殺したうち、リパブリカン武装組織メンバーはゼロ、ロイヤリスト武装組織メンバーが1人、一般人は12人。PAFはリパブリカン武装組織メンバー1人と一般市民36人を殺しています。

つまり、「UVF系組織」の477人の犠牲者のうち、「敵」であるはずのリパブリカン武装組織メンバー(つまりIRAやINLAなどのメンバー)は22人、同じ側であるはずのロイヤリスト武装組織メンバーが42人、一般市民が407人です。

これが、彼らの言う「戦争 war」だそうです。

ついでなので、UDA系組織の犠牲者数も合わせて見てみましょう。

  • 一般市民:UDA系が214人、UVF系が407人、合計621人
  • リパブリカン武装組織メンバー:UDA系が11人、UVF系が22人、合計33人
  • ロイヤリスト武装組織メンバー:UDA系が38人、UVF系が42人、合計80人


※「ロイヤリスト武装組織」にはこのほかLVFとRHDがあります。これらについては後ほどまた。

参照先:
http://en.wikipedia.org/wiki/Ulster_Volunteer_Force
http://cain.ulst.ac.uk/othelem/organ/uorgan.htm#uvf
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/6619417.stm
http://www.guardian.co.uk/uk/2007/may/03/politics.northernireland
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*参考書籍*

北アイルランド紛争についての英書

英語ではとても読みきれない(買いきれない、収納しきれない)ほどの本が出ていますが、筆者は特に下記の書籍を参照しています。
※画像にポインタを当てると簡単な解説が出ます。

031229416607475451970717135438
The IRA
Tim Pat Coogan
Loyalists
Peter Taylor
Killing Finucane
Justin O'Brien

北アイルランド紛争について、必読の日本語書籍
筆者はこのブログを書く前に、特にこれらの書籍で勉強させていただいています。

4621053159 4846000354
IRA(アイルランド共和国軍)―アイルランドのナショナリズム
アイルランド問題とは何か
鈴木 良平

北アイルランド紛争の歴史
堀越 智

IRA―アイルランドのナショナリズム(第4版増補)
鈴木良平

458836605X
暴力と和解のあいだ
尹 慧瑛
→「北アイルランド」での検索結果
→「Northern Ireland」での検索結果
* photo: a remixed version of "You are now entering Free Derry",
a CC photo by Hossam el-Hamalawy
http://flickr.com/photos/elhamalawy/2996370538/


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