「紛争」の終結時期については、政治面についての話なのか、軍事面についての話なのかに分けます。長くなるので。
政治的には1998年4月のベルファスト合意(別名「グッドフライデー合意」、以下「GFA」)を大きな節目とするのが一般的です。
ただGFAは「大きな節目」ではありましたが、結果的にはこれだけですべてが終わったというわけではなく、最終的に政治の面で決着がついたといえるのは2006年10月のセント・アンドリューズ合意です。この合意で「北アイルランド自治政府」がまともに機能しうるものとして復活した(2007年5月)ということで。(「機能しうる」は「機能する」と同義ではありませんが。)
ただし、セント・アンドリューズ合意でもまだ積み残しになっていることがあり、それは現在完了進行形でもめてます。より正確には、2008年6月からもめごとが本格化し、11月半ばに何とか打開(したらしいけど、まだどうなるか……)。その間、世界では金融危機など大きな出来事があったのですが、北アイルランド自治政府は事実上の機能停止に陥っていました。
そのことは本館、およびはてなブックマークで。
http://nofrills.seesaa.net/category/1773838-1.html
http://b.hatena.ne.jp/nofrills/Northern%20Ireland/Stormont/
なお、セント・アンドリューズ合意のときは報道もNIの政治系ブログもまるで盛り上がっていませんでした。私も、同時期にアンナ・ポリトコフスカヤの殺害などがあったためにあまり見ていませんでした。当時のエントリ:
http://nofrills.seesaa.net/article/25717741.html
http://nofrills.seesaa.net/article/25281119.html
GFAからセント・アンドリューズ合意の間には、一度再起動した北アイルランド自治議会が「ストーモントゲイト」と称されるスパイ疑惑(後にその事実はなかったことが判明)でサスペンドされていた期間があり、当時の英ブレア政権はその状態を、いわば「正常化」することが至上命題でした。で、そこでもいろいろあったんだよねっていう話はブレアの側近だったジョナサン・パウエルの手記に書かれているそうですが、私は未読です。
![]() | Great Hatred, Little Room Jonathan Powell Bodley Head 2008-03-20 by G-Tools |
※お、値段がすごく下がってますね。前は確か4000円だったのに今は2800円くらい。円高の影響にしても変動幅が大きい。
そして、その「正常化」の過程において最も大仕事になったのは、「反カトリック」の宗教指導者で煽動家であるイアン・ペイズリーの創設したDUP (Democratic Unionist Party) と、「IRAの政治ウィング」であるシン・フェインを、同じ部屋で同じテーブルにつかせることでした。
そして――以下、ソースのURLを入れておいても誰もクリックしてくれないみたいだから省きますが、すべて元のニュース記事は本館に書いてあります。必要な方は年月を手がかりに探してください。お手数かけますが――セント・アンドリューズ合意の後、2007年1月にシン・フェインが党大会で、それまで否定してきた「英国の国家権力」の受け入れ、つまり「警察へのサポート」を決議し(ここでも分派が出ました。人数は少なかったみたいですが)、同年3月にはイアン・ペイズリーとジェリー・アダムズの直接会談が実現(このときに報道写真を見て「フォトショじゃないよね」と大騒ぎになっているNIの皆さんを見て「やっぱみんな信じられないんだ」と思っていたのも懐かしい思い出)、同年5月には、上に書いたように、北アイルランド自治政府が再起動されました。
このとき、私は
2007年05月08日 「北アイルランド紛争」が本当に終わる日。
http://nofrills.seesaa.net/article/41177052.html
というエントリを書いています。
2002年10月に、いわゆる「ストーモントゲイト」でフリーズして以来のことですから、4年半ぶりです。その4年半の間に、Provisional IRAの武装集団としての活動停止と武器放棄(いずれも2005年)を最も大きなターニングポイントとし、今年3月のイアン・ペイズリーとジェリー・アダムズの史上初の直接会談と合意という最も信じがたい光景をシンボリックなものとし、つい数日前のUVF(アルスター義勇軍)の武装集団としての活動停止宣言を最後の一幕のうちのひとつとする「北アイルランド紛争」の本当の終わりが、今日ここに現実のものとなるのです。
・・・と書いているとトニー・ブレアかピーター・ヘインが憑依してるんじゃないかと思われてしかたがないのだが、説明しようとするとこうなってしまう。
……
もちろんこれで終わりというわけではない。英治安当局とロイヤリスト武装組織との癒着、dirty warと呼ばれる事態についての真相解明はまだまだこれからだし(それどころか、NIで大物スパイのハンドラーだった人がMI5長官に就任という、何ともいやはやなことになっている)、「カトリックだから」という理由で襲撃され殺されるというような事態がもうないという確信はできないかもしれない。すべての武装組織が活動停止・武装解除を宣言したわけではない以上、これからも時々は「爆発物」とか「襲撃」といったことが報道されるかもしれない。そして「紛争のメンタリティ」は急にリセットされうるものでもない。それでも、これは「終わり」であり「始まり」である。