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2008年11月26日

【質問14】 北アイルランドにおける「リパブリカン」、「リパブリカニズム」とは何ですか。

【回答14】
「リパブリカン republican」は、字義通りには「共和主義者」で、実際に北アイルランドの「リパブリカニズム republicanism」が「共和主義」という日本語に翻訳されている場合も多いのですが、これもまた著しくミスリーディングであると思います。

北アイルランド紛争の文脈では、「リパブリカニズム」とはmilitant (Irish) nationalism, つまり「好戦的ナショナリズム」のことです。

「ロイヤリスト」が「ユニオニストの過激派」であるのと同様に、「リパブリカン」は「ナショナリストの過激派」です。

CAINの「用語集」を参照しておきましょう。

Strictly the term refers to a person who supports the style of government based on a republic over a monarchy. In a Northern Ireland context the term Republican is taken to imply that the person gives tacit or actual support to the use of physical force by paramilitary groups with Republican aims. The main aim of Republicans being the establishment of a United (32 county) Ireland.

厳密には「リパブリカン」という用語は、王制より共和制を支持する人のことである。北アイルランドのコンテクストにおいては、「リパブリカン」という用語は、リパブリカンの目的を有した武装集団による武力の利用を暗黙のうちに、あるいは実際に支持する者を示すものとされる。リパブリカンの主要な目的は、「統一(32州)アイルランド」の実現である。

http://cain.ulst.ac.uk/othelem/glossary.htm#R


参照先(一応ウィキペディアも):
http://en.wikipedia.org/wiki/Irish_Republicanism
※これも見ただけでくらっとくる。



なお、元々の意味どおりの「共和主義」については、イースター蜂起から独立戦争のころの「反乱勢力」(<英国視点で)の主張していた「アイルランド共和国 Poblacht na hÉireann」(【質問7】で少し書きました)を参照していただきたいのと、1912年の「アルスター誓約 Ulster Covenant」(Home Ruleに反対するユニオニストたちの署名、というか血判状みたいなもの)で、"we, whose names are underwritten, men of Ulster, loyal subjects of His Gracious Majesty King George V" (われわれジョージ5世陛下の臣民たるアルスターの男たちは)といった文言で、「国王への忠誠」が前提となっていたことを参照していただきたいと思います。

それと、現在のアイルランド共和国の国旗となっている緑+白+オレンジの三色旗、あれは19世紀のアイリッシュ・ナショナリストが、フランスの1848年の革命(二月革命)に触発されて、ナショナリストのテーマカラーだった緑+白+オレンジを、フランスの三色旗に適用したもの。1916年のイースター蜂起までは忘れられていたようですが。
http://en.wikipedia.org/wiki/Flag_of_ireland#History

「王制」か「共和制」かというのは英国にとっては非常に切迫した危機だったし、今も程度の差こそあれ、基本的にはそうです。そういえば、映画『クイーン』の冒頭で、新たに首相となったトニー・ブレアの妻であるシェリー・ブースが共和主義者(王制廃止論者)であることからびみょーな空気になってる場面がありました。

で、北アイルランドの「リパブリカン」は、英国の王制をどうすべきとかいうのはあんまり考えていなくて、ただ自分たちは英国王に忠誠は誓わないし、自分たちの国が「王国」になることも望んでいないけれども、そういった文脈での「共和主義」ではなく、【質問7】で書いたようなピアースやコノリーの「共和国」(ピアースやコノリーの時代は、アイルランドはまだ丸ごと「英国の一部」でした)という文脈での「共和国建設」を目指していて、そして何より重要なことには、武装主義なのです。

アイルランドの「リパブリカン」に「共和主義者」という訳語を当てはめることは、「武装主義」を見えなくしてしまうか、あるいは逆に「共和主義」に「武装主義」を同一化させてしまう可能性があり、それゆえにミスリーディングだと思います。

これは北アイルランドの政治的主義主張を語る4つのことば(ユニオニスト、ロイヤリスト、ナショナリスト、リパブリカン)すべてに言えると思うことであり、それゆえ、これらの4つの言葉は「特殊な用語」として全部カタカナ表記にしておいたほうがよいと私は考えています。だから本館でもこのカタカナ表記です。
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*参考書籍*

北アイルランド紛争についての英書

英語ではとても読みきれない(買いきれない、収納しきれない)ほどの本が出ていますが、筆者は特に下記の書籍を参照しています。
※画像にポインタを当てると簡単な解説が出ます。

031229416607475451970717135438
The IRA
Tim Pat Coogan
Loyalists
Peter Taylor
Killing Finucane
Justin O'Brien

北アイルランド紛争について、必読の日本語書籍
筆者はこのブログを書く前に、特にこれらの書籍で勉強させていただいています。

4621053159 4846000354
IRA(アイルランド共和国軍)―アイルランドのナショナリズム
アイルランド問題とは何か
鈴木 良平

北アイルランド紛争の歴史
堀越 智

IRA―アイルランドのナショナリズム(第4版増補)
鈴木良平

458836605X
暴力と和解のあいだ
尹 慧瑛
→「北アイルランド」での検索結果
→「Northern Ireland」での検索結果
* photo: a remixed version of "You are now entering Free Derry",
a CC photo by Hossam el-Hamalawy
http://flickr.com/photos/elhamalawy/2996370538/


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