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2008年11月25日

【質問7】 「北アイルランド」という呼称があって「南アイルランド」という呼称がないのはなぜですか。

【回答7】
「南 the South (of Ireland)」という言い方がないわけではないのですが、確かにそれは正式なものという扱いはできませんので、「呼称がない」として問題はないでしょう。

「北アイルランド」は、英語では "Northern Ireland" と書き表されます。

この名称の由来については、簡潔に説明できる人がいたら私が教えてもらいたいくらいですが、1920年の英国の法律(つまりウエストミンスターの議会で審議され可決されたもの)であるthe Government of Ireland Act, 1920で、アイルランドの自治(Home Rule)においてはアイルランド島をSouthern IrelandとNorthern Irelandに分ける、というシステムができたことが始まりです。
http://en.wikipedia.org/wiki/Government_of_Ireland_Act_1920

(なお、アイルランドの自治というのは19世紀のディズレイリとグラッドストーンの時代からウエストミンスターの主要議題となっていたことで、ちょいなちょいなと調べた程度ではどうにもこうにも、というトピックなので、ここでは表面的に流します。)

1920年の英国の法律で定義された「南アイルランド Southern Ireland」はすぐに「アイルランド自由国 Irish Free State」になったため(←この説明はかなりはしょったものです。正確なところは下記URLをご参照ください)、「南アイルランド」の名称は何か法的な文書に書けるようなものとしては残っていません。
http://en.wikipedia.org/wiki/Irish_Free_State
http://en.wikipedia.org/wiki/House_of_Commons_of_Southern_Ireland
http://en.wikipedia.org/wiki/D%C3%A1il_%C3%89ireann_(Irish_Republic)

この件については、英語版のウィキペディアだけでも相当詳しいことがわかりますので(ソースもついています)、調べるのはかなり簡単です。入り口としては、下記(Northern Irelandの項目内、Historyの項)がよく整理されていると思います。
http://en.wikipedia.org/wiki/Northern_Ireland#History

なお、「アイルランド自由国」は1922年に成立し、1937年の憲法で国名を「エール」(アイルランド語)もしくは「アイルランド」(英語)とした後、1949年に「アイルランド共和国 Republic of Ireland」(アイルランド語ではPoblacht na hÉireann)となりました。
http://en.wikipedia.org/wiki/Names_of_the_Irish_state

easterproclamation.jpgこの「アイルランド共和国」は、1916年のイースター蜂起のときにパドレイグ・ピアースが読み上げた「アイルランド共和国宣言 Proclamation of the Irish Republic」での「アイルランド共和国」とは、英語では文言が異なります。すなわち、イースター蜂起のときの「アイルランド共和国」は英語でthe Irish Republicですが、現在の「アイルランド共和国」はthe Republic of Irelandです。しかしながら、アイルランド語ではどちらもPoblacht na hÉireann(これを英語に逐語訳すると、Republic of Irelandとなる)。

……つまり何が言いたいのかというと、「私にもよくわかりません」ということです。日本語で書かれた文章では、the Irish Republicもthe Republic of Irelandもどちらも「アイルランド共和国」だし。(だから、アイルランドについては、日本語だけで調べようとするのはちょっと難しかったり。)

しかし、20世紀後半におけるアイリッシュ・ナショナリズムおよびアイリッシュ・リパブリカニズムについて知るために、これが重要なポイントのひとつであることは事実です。この点について何も知らずに「IRA」という存在について語ることはできません。(ただし、「IRA」というものが「目の前にいる武装した敵」である場合などはその限りではないと思いますが。)

なお、「アイルランド共和国 the Irish Republic」という「理念」については、アイルランド独立戦争からその後の内戦にかけての流れを、テディとデイミアンという2人の兄弟を通じて描いたケン・ローチの映画『麦の穂をゆらす風』(→この映画について書いた記事@本館)を、メインのストーリーにではなく、英国側の暴力にでもなく、一種の背景として映画に描きこまれた「政治的状況」など(アイルランド人の討論など)に注目して見ると、かなり立体的に理解できるのではないかと思います。というか私はそうでした。ただしこの映画、歴史を描いたものとして見るには、年表を参照しながらじゃないとちょっとわかりづらいのですが。

B000NIVIPA麦の穂をゆらす風 プレミアム・エディション
ポール・ラヴァティ
ジェネオン エンタテインメント 2007-04-25

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なお、「共和国」の理念と独立戦争については、「1910年代後半の欧州」という観点からの検討も重要です。先日、アイルランド共和国のアイルランド語専門局、TG4が制作したSoviet na hEireann (Soviet Ireland) というドキュメンタリーをオンラインで見たのですが、日本語の書籍では下記があります(私は未読です。すみません)。

4846001725アイルランド独立運動史―シン・フェイン、IRA、農地紛争
森 ありさ
論創社 1999-10

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*参考書籍*

北アイルランド紛争についての英書

英語ではとても読みきれない(買いきれない、収納しきれない)ほどの本が出ていますが、筆者は特に下記の書籍を参照しています。
※画像にポインタを当てると簡単な解説が出ます。

031229416607475451970717135438
The IRA
Tim Pat Coogan
Loyalists
Peter Taylor
Killing Finucane
Justin O'Brien

北アイルランド紛争について、必読の日本語書籍
筆者はこのブログを書く前に、特にこれらの書籍で勉強させていただいています。

4621053159 4846000354
IRA(アイルランド共和国軍)―アイルランドのナショナリズム
アイルランド問題とは何か
鈴木 良平

北アイルランド紛争の歴史
堀越 智

IRA―アイルランドのナショナリズム(第4版増補)
鈴木良平

458836605X
暴力と和解のあいだ
尹 慧瑛
→「北アイルランド」での検索結果
→「Northern Ireland」での検索結果
* photo: a remixed version of "You are now entering Free Derry",
a CC photo by Hossam el-Hamalawy
http://flickr.com/photos/elhamalawy/2996370538/


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